「あんまり話したことないけど宜しくね、毛利くん」
彼が好みそうな笑みをうかべて挨拶をしたけど顔はひきつっていなかっただろうか。
「あぁ、宜しく」
すっと私に向かって伸ばされた滑らかで骨の張った手。この手が私のためだけに差し出された事実に、ただ触りあうだけだというのに自分の手を差し出すのに時間がかかってしまう。


彼のひんやりとした体温と私の暖かな体温が混じる。少しでも手を繋いだという事実を彼に頭の角でいい、残していてもらおうと繋いだ掌、指の先に至るまで自分の体温を注ぎ込もうと力を込めた。


誰もいない図書室のカウンターに二人並んで座る。室内には彼の長くて整った指が小説のページを滑らかに捲る音だけが聞こえる。私は横目でそれを追う。癖の無いサラサラな髪から香る微かなシャンプーの匂いに眩暈。瞳や鼻、唇どのパーツも洗練されていて瞬きや唇の動き一つに魅入ってしまう。あぁ、綺麗。



は読まないのか」
突然視線が弾けて毛利くんと眼が合う。驚いた拍子に始めの数ページから止まったままだった小説がことりと落ちる。
「う、うん。読んでる、よ、大丈夫。ありがと」
何がありがとうなのかよく分からない返事を返す。彼はいぶかしげに眉根をよせている。何か言わなくちゃ。急かされているわけではないのに慌てて喋ろうとする私。
「あ、えと、この本話、難しくて。読みやすくて毛利くんのお勧めがあったら教えて欲しいな」
しどろもどろになりながら伝えると毛利くんは新巻の中から一冊を選んで無言で渡してくれた。そしてまた文字がびっしり並んだ厚い本に集中する。くるりと椅子を回転させて向けられた背中を見つめる私は渡された小説を広げてにやける口元を隠すしかなかった。



(この仕事を選んだこと、これは偶然から生まれた必然であって決して悪意はないのです。だって好きな人に近付きたい気持ちは誰にでもあるでしょう)




(07.12.27)
裕さん リクありがとうございました!