全ての花は枯れることを芽が出た日から決められてるのに。












大詰め







大阪の旗本……化猫と時と似たものを感じた。それに、煙々羅。あれが多分……瀬戸さん。では、なぜモノノ怪にとり憑かれたのか。
瞼を開くと清流の端に立っていた。川岸に細い見覚えのある姿。そう、彼女だ。
近づいて声を掛けるとやはり眉間に皺を作ったが、視線が水面に戻って小さな石をひとつ投げた。
ぽちゃり。小さく音を立てて沈んでいく。沈む姿は想像するしかなかった。
「私、捨て子だったんです。働けるようになるまでお寺で育って、お嬢様のお店に拾ってもらいました。みんなよくしてくれて……。 なかでもお嬢様は私と年が近くて一緒にいろんなことをしました。本当に楽しかった……。辛いこともたくさんあったけど、いつも お嬢様が話を聞いてくれた。それで心が軽くなって明日も頑張ろう、お嬢様との楽しい一日のために頑張ろうって思えるようになったんです。そして、私もいつかお嬢様みたいな人間になりたいと思ったんです。でも、私とお嬢様は違う人間だから同じになれるはずがない……。お嬢様は年々器量が良くなって、男の方のお知り合いも増えて……周りにたくさんの人が集まって遠くからみることしかできなくなってしまったんです。私には眩しくて、とても輪には入れなかった」
水面に瀬戸さんの表情が映ったがそれは人らしい表情だった。
「その内、お嬢様に好意を抱いている人が現れたんです。その方は文を出したりなんてあからさまなことはしませんでしたけど、私には 分かりました。だってその方がお嬢様を見ていたより遥か長い時間、お嬢様のことを考えてきたんです。 お嬢様への視線で一目瞭然……。終いにはこのお店で働かせてくれ、と」
「それで男たちを殺したのか……?」
「……はい」
彼女は蚊の鳴く声で返事をした。着物を握り締めた拳は震えていた。
「でも!始めは自分がそんな恐ろしいことをしていたなんて思わなかったんです。 周りの男は居なくなればいいって思っただけなんです。 そうしたら次々に死んでいって……。私がおかしな力を持ったとたん、お店にボヤが出るようになったから これで人が居なくなってくれるって心の中で思ったんです。何をどう思うかは自由でしょう? あるとき、そのボヤを私が操れることを知りました。それで、少し悪戯をしただけ……」
彼女は悔しかったのだろう。自分から”お嬢様”をとられたことが。自分が輪に入っていけなかったことが。
「それでも、悪戯にしては度が過ぎる」
「あなたに私の思いなんて分からない!!あなたみたいに恵まれた人になんて絶対に!容姿だって、学だって、贅沢できるお金だって私にはない!!私にはお嬢様だけだったのに!!!」
駄々をこねる子供のように喚いている。幾度も落ちる涙がどれ程悔しかったのかを表していた。
「瀬戸さん、貴女は自分に力が宿ったと勘違いをされているようですが、本当はね、利用されていたんですよ」
「り……よう?そんな筈ありません。だって、私の意志でボヤが……」
「貴女は煙々羅という怪に利用されていたんです。貴女が得たと思っていた力は怪が貴女の怨念を借りてこの世に災いを生じさせただけなんだ」
「嘘……」
「煙々羅は静かでしぶとい怪だ。そして女の怨念を好んでとり憑く。長年”お嬢様”を思い、考え、好意を寄せる相手を恨んだその心。 それが煙々羅の格好の住処になった。煙々羅は瀬戸さん、貴女だ」



カシャン!



「退魔の剣を!」
対峙している瀬戸の骸を突き飛ばして、突然薬売りが現れた。
「はっ、はい!」
「部屋の角にいろ!」
言うや否や退魔の剣をいつの間にか現れた煙々羅に向け叫んだ。
「形、真、理によって!退魔の剣を解き放つ!!!」



*****



美しい光景を見た。
退魔の剣で切られた煙々羅は花となり、虹彩となり、紙吹雪となり、地面に落ちる頃全て消えた。
「瀬戸……」
残った骸はもう悲しげな顔をしていなかった。