花には水が無いと生気が虚ろう。












四の幕







自然の流れでこの店に医者を名乗って居座った薬売りが清次郎の容態を診る事になった。
ひととおり清次郎と会話をした後、私に飲ませる薬の指示だけをして今は部屋中に不可思議なものを張り巡らせている。
それは所謂”御札”というやつで厄避けになら一つで十分でないかと問う私に、確かに厄だ。と答えになってない言葉が返ってきた。



「貴女方が思う厄とは何で」
私と向かい合い、茶をすする薬売りが今度は私に問いかけた。
「えぇっと……、人が……、男の人ばかりが死ぬことです」
「それはどうしてか考えてはみましたか?」
「はい。始めは偶然か病気かとも思いましたけど、こうも続くと原因を考えずにはいられませんから。怨恨の線が濃いかと思ったんです。こういう商売をしていますから、やはり只で高い薬湯を提供するするわけにはいきませんし。この店自体か、私のあずかり知らぬところで誰かが店の誰かに恨みを買っていたのではないかと。それも推測の域をでないのですけどね」
「ふむ……、お店の人間関係は」
「普通、といいましょうか。特筆すべきことはないですね。強いて言えば、清次郎が真面目で見た目もよい男ということでしょうか。 清次郎を見に店に足を運ぶ方もいるくらいですし。もしかすると”そういうこと”かもしれませんね」
話をしている間、じっと見つめられて居心地が悪い。
「あの、私何か変なことをいいました?」
「いえね、お店の末子というのに真面目で聡い、と思いましてね。ほら、よく居るでしょう、大名やら大店の駄目息子。いや、偏見で物を言ってはいけませんがね。そういう印象があるもので」
「……ありがとうございます。清次郎以上の男性に褒められるなど今までにないことで」
「では、貴女という人を見込んで、貴女に私の仕事を手伝ってただきたい」
「仕事?」
どういうことだろう。医者としてなら清次郎の処置は完了した。まさか薬売りを手伝うという意味ではないだろうし、 私の虚言癖を直す仕事かとも考えたけれど、そもそも私はそんなもの持っていない。
「妖怪退治、ですよ。切るんですよ……怪をね」
綺羅り。掲げた刀が怪しく光った。



「つまり真は何があったか。理はそれが起こった理由。形は何が怪奇を起しているかという事ですね」
予測の範囲を出ていない私には難しい問題に思えた。でも、ひとつだけ心辺りがあった。
「形……。煙じゃないかと思うんです」
「ほぉ、私はてっきり貴女ではないかと思ったのですよ。いや、失敬」
……本当に失礼だ。じゃあ、私を看病する振りをして、隙を見て切ろうとしていたのだろうか。
「そんな顔をしては折角の華が台無しですよ」
「え……」
心臓が跳ねた。 艶のある男が言うものだから性質が悪い。
「それで、貴女の言う煙とは?」
「……ここ最近の話です。丁度一人目が無くなる数日前だったと記憶しています。焚き火のものより鼠色をしていて、触れればつかめそうな煙 が母屋から登りました。それからはたびたび見るようになりました。母屋・店先を問いませんでしたし、煙がたっていた 根元に行っても燃えた形跡がなかったので、皆気味悪がりながらも何もしませんでした」
瞼を閉じて聞いていた薬売りが僅かに眉を顰めた。
その時。
「伏せろ!!!」
轟音だった。札を貼った襖がガタガタ音を立て、畳も下から叩かれているかのように揺れが激しい。
一瞬のことだった。多分3つ数えた位。
「行くぞ!」
襖を開けた薬売りにギョッとしたが外にはいつもの風景が広がっていたことで少しだけ平静をとり戻して背中を追った。