店の末娘に心を奪われた男が花弁の数程居たのも事実。花弁が散るように命を落としたのも事実。












三の幕







群雲の夜空、今宵は視界が明瞭としない。掛けた布団も普段より冷たく感じる。
「はぁ……」
今日は瀬戸に厳しく当たってしまったかもしれない。
「明日、謝ろう」



その日、私は夢をみた。
『お嬢さん』と昼間の下男が声を掛けてきた。これは水を飲みに来たのかと私は納得した。下男は書物を夜遅くまで読むのが習慣で、読みふけってつい眠りそびれたときなどは喉を潤しに厨までやってくることを知っていたので『あぁ』とだけ返事をした。『お嬢さんも御用で?お水でしたらお持ちいたしますよ』『いえ、唯、ちょっとやらなくちゃいけないことがあって』『そうですか、お体に触らない様に』
自分でも何を”やらなくちゃいけない”と思っていたのか分からなかったけれど、呆けている意識のなかで口が勝手に開いたのだった。



キャぁアアアアアアアアアアああぁあアア!!!


朝、下女の金切り声で目が覚めた。





***





「清次郎が!!誰かーっ」
布団で聞き耳を立てるに、どうも尋常でないことが起きたらしい。嫌だな……既視感だ。騒がしさの中心へ向かうと案の定だった。
厨で下男が死んでいた。
切られたのでも、首を絞められたのでもない。どこにも死因らしきものが見当たらない遺体。これで4人目だった。
「どうして……」
またか、という声が輪のように連なる。
恐かった。これでは私の夢と同じじゃない。傍には柄杓が転がっていて、まさに夜中に水を飲みに来たことが伺えた。
「ああっ、お医者様、これをみてください……」
下女の案内で派手な着物の男がやってきた。
「これは……妙なご遺体で」
「水……ではなさそうですね……」
薬売りはその場で水を救って飲んでみせる。
「……」
周囲がざわついた。清次郎が意識を取り戻したのかもしれない。
今回は違ったか、早とちりだったかなどと皆が無理矢理笑顔を作る。私もそうですね、と返した。もう誰も死にません様にと祈って。



この時、西の部屋で例の煙がたっていたことに気づけなかった。後にやたら大きかったと誰かが言った。



(10.7.27)