拾い子であった。多少の虚言壁はあるも、すらりと伸びた四肢と垢抜けている雰囲気が、目の彩が違う人間との間に産まれたやや子の子孫の様だ、と。そう医者は行った。












序の幕




「お嬢さーん、行商の方がーっ」
「はーい、すぐにー!」
店先から下男に呼ばれて急いで外に出た。そこにはへの字の口も綻ぼうという美しい男がいた。薄花色の染み爪やその他些か、いや甚だしく奇妙だったがそれを差し引いても余りある美男。
「こちらにはどんなご用件で……?」
背に担いでいる木箱はこの家の物に似ていて、この男が薬を買いに来た人間だとは思えず、しかし売りに来たとも思えず尋ねた。下男もどう表現したものかと躊躇っただろう。
「私は薬売り、で」
「はぁ、こちらも見ての通り薬屋で」
何とも奥歯に物の挟まったような喋り方をする。
「今日訪ねたのはあなたの義親父様(おやじさま)のご希望……で。貴方の病を治しに来たのです」
「…………そう……ですか」
ちなみに私は虚言癖などもっていない。それは義親父様たちの妄想だ。それでも私の言動は皆に怪しく映ってしまうようで、名医と呼ばれる類を何度か呼び寄せた。



「ふう、」
小さくため息をついて薬売りを母屋に案内する。こういう人物が現れたときに通す部屋は、さも当たり前かのように自室の隣にあった。
「ここです。必要なものは全て下女の瀬戸に」
瀬戸が会釈をした。やはり薬売りの顔を見ない。
「失礼しました。あれは男嫌いなのです。ここへ来た頃は平気だったのに……いつの間にかあのように。ですが、お客様の身の回りのことは出来ますので不自由はないかと」
返事が無い。気に障ってしまったかと思ったが杞憂だった。
「へぇ、いや、ね。流行っているお店というのに男手が少ないと思いましてね」
「お気づきになられましたか」
「それでは噂はもう耳に入って?」
「いえ、火事がよく起きる、とだけ」
男の少なさに気づいたか。聡い男。
薬売りの口角が僅かに上がった気がした。





***





嫌だな。誰がそんな誤解の招く言葉で話したのか。言い方というものがあるだろうに。真実ではあるけれど。
「そうですね……。一時期前まではそれなりに男の方は居たんです。でも……不幸なことが重なって……」
「不幸な……事?」
「えぇ、夜中水を飲みに行ったのでしょう、謝って井戸に落ちたり、階段から足を滑らしたり、自分にと調合した薬の分量を謝ったまま服用してしまったり……。あまりに続くものですから、徐々にお店を離れてしまったんです。ですから、ここに残る男の方は今や片手で足りる程」
「そう……でしたか。それはそれは」
「その頃からでしょうか、煙が上がるようになったんです」
「煙、ですか」
「そう。始めは煙だったんです。母屋、お店(おたな)関係なく鼠色の煙が昇るようになりました。それの根元に行っても何も燃えた痕跡がないんです。不思議でしょう。まあ、被害あでていないのでいいのですが、皆気味悪がってしまって」



「では、私はこの辺りで。まだ店を閉めるには早いので」
今回のは診察はしないのだろうか。不思議に感じたけれど煩わしいものが無くていい。ヤブでも数日滞在すれば義親父様も納得するだろう。
今回は気が軽い。私は気持ちよく伸びをして店先に戻った。



(10.7.25)