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犬神が現れたときに貰った珊瑚の懐刀を撫でる。 これをつくってから相当年月が経っているだろうに珊瑚のまろやかな赤が損なわれていない。丁寧に手入れをされていたのだろう、鞘は引っかかること無く抜けて、銀色の刃が太陽にきらりと反射した。 渡されたときに懐刀は元は私の物だと言っていたが信じられない。前世、のことらしい。私と犬神に縁があったのは。 梅を甘漬けにするために懐刀でプチ、と枝を取り去っていく。犬神が横でフォークを構えているが食べるためではない。だいたい青梅を生で食べると中毒になってしまう。私が目の前に敷いた新聞紙の上に乗せた梅にフォークの先で穴を空けていく。ハチミツをしみこみやすくするためだ。爪で実を傷めないようにそっと持って真剣にフォークを使っている様子は微笑ましい。 「しまった…!」 ぐしゅっと実が潰れる音がして手から実が零れる。 「申し訳ない………。主様のために取って来たというのに」 しょぼんとうな垂れた背中もそうだけれど、伏せられた耳と畳にへたりと垂れた尾になんとも言えない哀愁が漂っている。 「梅の一個や二個なんて大丈夫ですよ。たくさん採って来てくれたんですし」 元気づけようかと思って言った言葉だったけれど余計に顔が暗くなる。ちろりとこちらを窺う様子は叱られた子どもみたいだ。口がぱくぱく開閉を繰り返して何か言おうとしているけど、一向に喋らない。 「何ですか」 「………」 「言ってください」 首がぎぎぎと油の挿していない自転車のように動いて両の手を差し出された。 「わ、」 掬った手にこんもりと詰まれたものはフォークを強く突き刺した余りにボロボロになった梅。 「こんなにするつもりはないのだが、実が小さい上に扱いづらく上手く刺せぬのだ」 「うーん、しょうがないですね。これは食べれませんけど残りの梅は一緒に片付けましょうか」 台所から自分も小さなフォークを取り出して刺し始める。成程、硬くて小さい梅は本当に扱い辛い。力を入れすぎると謝って手を傷つけそうになるけれど、力を込めないととただ実を傷めるだけになってしまう。1づずつゆっくりフォークを突き立てて、全て終わった頃には夕方になっていた。 「はい、じゃあ瓶に流し込んでください。梅が隠れるくらいでいいですよ」 いくつか瓶に分けた梅にとろとろとハチミツが流れ込んでいく。ゆっくりと黄金色の中に沈んでいく梅が食べごろになるのは1ヶ月程先だろう。 「これはいつ頃完成するのだろうか」 瓶を大事そうに持ち上げて笑う犬神はとても嬉しそうだった。
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