ハロー、トランゼ。
どうぞよろしく!








教団に来てから、大抵の現象には驚かなくなった。”イノセンス”という不思議なモノと出合ってから、そして小難しい数式やデータとにらめっこをしている科学班と話をするようになってからは、私の周りの大抵の現象が科学とイノセンスがらみで解決できるからだ。 しかし、やはり私も人間なのだ。 自分の想像できる範囲外のことがあると驚くし困惑する。 そして、それは今、私の目の前にいるのだった。




「あれ?嬢さん、もしかしてワイのこと見えとる?」
「あ……はい。見えてます」
「よっしゃあ!いやぁ、マスターしかワイのこと見えてへんから退屈で仕方なかったんや。マスターは勉強しとるしな。ワイは人間の学は無いしなあ、字の山を見てもよく分からんよって。それに専属家庭教師がおるし」
「………」
目の前に浮かんでいるこの男の話を総合すると、つまりこの幽霊のような人物は……。
「憑神?」
「ビンゴ!」
憑神は満面の笑みだ。
「ちょっとごめんなさい。私、今日はお休みなので」
憑神に背を向け自室の扉を開ける。食堂から頂いてきたトレーを机に置き、ミルクティーを一気に飲み干した。
自分なりの落ち着く方法だ。
そう、前の騒動から帰って来てから大急ぎで書類を提出し、やっとのことで得られた休息。 久しぶりのオフを楽しもうと思い、ピックアップしておいた本を思っていたところなのだ。 ミルクティーとプレーンクッキーも用意してある。
「ちょお待って!ワイのことが見える人間は少ないんや!話たって!」
憑神はどうやらよほど話し相手に飢えている様。
「………えっと、あなたはティモシーのイノセンスなんですよね?」
「ん?似とるけどちょお違うな。ワイはイノセンスの介添人ってとこやな」
「へぇ、じゃあ憑神がイノセンス本体じゃないのか」
「そうそう」
肌は白く、髪は紫と奇妙な姿だけれど、慣れてくれば許容範囲だ。
それにコロコロと変わる表情が面白くも感じた。
「うん、まぁいいか。」
「何が?」
東洋の民族衣装が混ざった様な服の裾を口元に当て疑問符を頭に浮かべている憑神に笑いかける。
「私は。どうぞよろしく」
「!」
憑神は一瞬目を丸くしたが、すぐに今日二度目の満面の笑みを見せ、私の手にその透ける白い手を結んだ。



(10.04.21)