今日はバイトの給料も出たことだし、といい匂いに誘われるがまま店へ入った。幸村は甘いもの好きだからなあ。「いらっしゃいませー」というお姉さんの笑顔に迎えられガラスケースを覗き込む。小腹が空いているのでどれもおいしそうに見える。壁に掛かっている時計は丁度三時。おやつ時だ。夕食までたっぷり時間がある上に今日はオール100円デーだしたくさん買ってしまおうと甘いのとほろ苦いのとビターなのを2つずつ頼んだ。



「ただいまー」
「あねうえー腹が減った」
居間に入るとヨレヨレの寝巻きのまま転がった弟にお帰りと迎えられた。頭は寝癖がついて簡単に纏めた髪の毛は根元からあらぬ方向に曲がっている。この子を女の子が見たら何と言うだろうか。実際に見せてやりたいがどうやら学校では模範生のごとき生活をしているらしい。私は荷物を置いて散らかしっぱなしの雑誌やゲームを片付けていく。これが弟にとって悪い影響しか与えないのは分かっているが片付けなければ私の座る場所が無い。「出したものは片付けなさい」と言えば渋々動き出すが暫くすると元の有様に戻っているので両親も半ば諦めている。愚弟はと言えば私の荷物から甘い匂いがしたのか袋を興味深そうに覗いて目でこちらに開けていいかと訴える。いいよ、と言えばすぐにガサガサ音がしてその様子は数日間ご飯を食べていない犬みたいだった。
「同じの2個ずつあるから1個ずつ分けっこよ」
「了解」
「ねぇ、飲み物オレンジジュースしかないんだけど」
「それでいい」
そう返事があったので幸村にはオレンジジュースを、私にはミネラルウォーターを注いだ。ジュースを片付けていると向こうで楽しそうな声が聞こえる。幸村は一人遊び上手だからなあ、また何かやってるのだろう。飲み物を零さないように運んでいけば「見てくれ!」と歓喜の声。
「姉上、六銭紋だ!」
私が買ってきたドーナツを広告の上に2個ずつ並べてそれを指差す弟は、にかっとそれはそれは嬉しそうに笑っていた。
「幸村あぁ!食べ物を粗末に扱っちゃいけませんー!!」

簡易式六銭紋


「腹一杯だ」
「全くもー……行儀悪いんだから。ジュース忘れてるよ。はい」
「ん、」
口にドーナツのカスをつけたままゴクゴクと飲み干していく。
「ぶほっ!」
「………ふふ、」
甘いものを食べた後にオレンジジュースなんか飲めば酸っぱいに決まってるじゃない。

(08.06.20)