薄い青が広がった空は高く鱗雲が浮かんでいる。 熱さも和らぎ緩く吹く風からは褪せた草の匂いがする。 方々から選手たちの覇気のある掛け声を聞いていると自然と心が落ち着く。 もうどれくらい一人稽古をしただろうか。 素振りのし過ぎで湿気と熱が充満した面を脱ぎ、 頭に巻いたタオルを取ると開け放たれている武道場の扉から吹き込んでくる風が 火照った全身を冷やしてくれて心地良い。 この気候のお陰なのか今日は調子が良いし身体も随分軽いように感じる。 原因が何なのか分からないのは些か気に掛かるが この様に清々しい気分であると心なしか腕も上がろうというものだ。 部員の者が集合するまでしばし休憩をするとしよう。 武道場と外を隔てる手すりにもたれかかり周囲を眺める。



突如、どっ、という音がして武道場に黄色い声が木霊する。 近隣の学校の制服を着た女子たちが一所に集まっているのが見えた。 その中心には大柄な男がいる。 どうやら女子たちはその男を応援しにきたのかタオルやジュースを差し出している。 ブレザーやセーラー服の女子がいるということは他校の生徒もいるのか。 どうやらかなりの人気者らしい。 面を被っていて表情を窺うことはできないがにこにこと笑っただろう男が手を振ると 目が合った女子たちは顔を覆って床にしゃがみ込んだ。 周りの者は羨望の眼差しで見ている。 何人もの女子に愛想を振りまくなどけしからん。 一人の女子を守ってこそ男ではないか。 それにここは神聖な試合の場。 へらへらとしておって一体何をしに来たと言うのだ、剣を交えるためであろう。 俺は微かないらつきを覚える。



女子たちが離れた後、面とタオルを取った大柄な男は誰かに呼ばれたのに気付き近くの出口へ向かう。 その背が見えた時、男の茶色の長い髪が後頭部で綺麗に巻かれているのに気付いた。 いわゆる「おだんご」と言うやつだ。 俺は普段ならこの様ないらつきを感じることなど滅多に無いのだが ムカムカとした嫌悪感がだんだん自分の脳内を支配してきて それから逃げるように自分の髪をおだんごに纏めていたゴムを毟るように解いた。



男の影から呼び出した本人らしき人影がのぞく。 濃紺のジーンズに生成りのワンピース姿。 男にポンと肩を叩かれて微笑んだ女子は俺の良く知るあの子だった。



曖昧がループ


(胸に鉛が溜まる一方だ。おまけに心臓に鈍痛が走る)

(09.10,04)