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夜風に吹かれながら元親のバイト先に向かう。肌寒くなってきたこの頃、昼の服装にカーディガンを引っ掛け、パンツのポケットにちょっとした買い物に使う薄い財布だけ突っ込んで家をでた。目的は買い物ではない。一日の終わりに元親に会いたくなっただけ。会いにきたというのは恥ずかしいから、雑誌を立ち読みしてお菓子でも買って元親に声をかけて帰ろう。 自動ドアが開くと女性の「いらっしゃいませ!」という声がした。バックヤードに入っているのだろうか、姿がみえない。元親は棚の向こう側にいても確認できる身長なので店内にいればすぐにわかる。店員さんも既に3人いておかしいなと思い時計をみると、バイト上がりの時刻を過ぎていた。 「お疲れ」 店の裏からバイクの唸る音がしてどこにいるか分かった。 「ん、何だよ。来るなら言えっての」 文句を言いつつ嬉しい気持ちを隠さないところは私が元親を好きだと思う要素の一つで。 「歩いて来たんだろ、乗ってけ」 「えっ、私ヘルメット持ってないよ」 「心配すんな。ヤードから持ってきてやる」 「別にいいのに。私の家まで送っていったら元親が遠回りになるじゃない。大丈夫だって……うわっ、煙い」 狭い店員専用のスペースには表に出していない商品の山と机と灰皿。灰皿に溜まった量は一人や二人分じゃない。 「ここの店員、ほとんどが煙草吸うんだよ」 「へぇ……口の中が苦くなってきた気がする……」 スモーカーでない私にたばこの煙の密度が高い部屋は辛かった。 「ごめん、先に出とくね」 「あぁ?何だ?ほら、ヘルメットあったぞ」 「あ、ありが………」 振り向いた瞬間、唇が重なった。舌がにゅると入ってきてくすぐったいような、脳が痺れる感覚に襲われる。 思わず意識が持っていかれそうになる。 駄目だ、店の人が戻ってきたらすぐに見つかってしまう。防犯カメラだってどこかにあるはずだ。 「んんん!!」 止めて!と唇を塞がれたまま訴えると、思いの他抵抗もなく開放された。二人のあいだに銀色の糸が引く。 それを元親がペロリと舐めて切った。 「甘くなっただろ?」 「苦かった!」 「何だよ、が苦いって言うから甘くしてやろうと気ぃ回したのによ?」 「早く帰ろうよ」 少し声を荒げると私の怒りがどこから来たのか合点がいったようで「メットで隠したぜ」と声が後ろから声が聞こえた。 隠しても傍の防犯カメラを見たら何をしていたかはっきり分かるだろう。 元親は「悪かった」とは言わない。なぜなら、唇が重なった瞬間、あの見つかるか見つからないかの瞬間に恍惚の表情をしてしまったから。脳が痺れたのは唇を塞がれたのもあったけれど、これで満足か?誰かに見られるかもしれない場所でこんなことしてるんだぜ?と元親が目で私に語りかけたから。 ぞくりとした。本当は更に私の期待に答えてくれる気がした。私も相当スキモノだ。 「どうした?帰るぜ」 「あっ、うん」 もう何事もなかった顔をしてエンジンを掛けなおしている。 大きな背中に体をくっつけても夜風が冷たい。胴に回している腕にぎゅう、と力を込めると元親の低く笑う声がした。 (10.09.29) |