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海と陸を隔てる縁石の上を歩く私のミュールが軋む。まるで私の心みたいに。 「あぁ、そのサンダルをはいててくれたのか」 サンダルじゃなくてミュールだって。 「うん。幸村がくれたものだからね」 今更気付いたのか。こういうところ、全く変わらない。 空はぬけるような青。照りつける太陽が辺りを鮮やかにみせて美しい。私の白いワンピースも幸村の瞳にこの景色みたいに綺麗に映っているといい。それで、ほんの少しでいいから私も綺麗に見えてるといい。幸村が離れ難いと思ってくれれば。 「ヒールが磨り減っているな」 「長いこと使ってるからね。当たり前」 縁石の上を歩く私を通り過ぎる人が見ている。恥かしくて当分ここにはこれないな。まあ、当分来る予定はないからいいけど。 やっぱりは不機嫌になった。 前日までどんなに機嫌がよくても当日になれば必ずこうなる。 「すまぬ」 謝ってもどうにもならないことなのに、それしか言葉がでてこない自分が不甲斐ない。 が笑顔になるような言葉が言えればいいのに。 縁石の上を歩くを見上げたけれど、太陽が眩しくて表情が分からなかった。 海風での髪がなびく。 「海風は髪が傷むと言ってなかったか」 「言った」 「日傘をささねば日焼けするから嫌だと言わなかったか」 「いいの」 「…………すまぬ」 「…………」 が大事にしているものを自身が傷つけるように仕向けるのはいつも俺だ。大切にしてほしいのに、大切にしたいのに上手くできない。 「、こちらへ」 呼びかけると歩みが止まる。 「こちらへ」 また2度目でようやくこちらを向いた。 が下りやすいように手を伸ばす。は片手を俺と結んでゆっくりとアスファルトに飛び降りようと踏み出す。 「よっ……」 「わっ!」 両手を出したら恥かしがって手を出してくれない。だから、片手だけ差し伸べてしっかり握って実行に移そうと思った。 優しく引いただけなのに、の体が俺の方へと傾く。お気に入りのワンピースがふわりと靡いて天使みたいだと思った。 落ちてきたのをしっかりと抱きとめると次の言葉を喋りださない内に自分の体へ押さえつけた。小さい体は硬直したまま動かない。 首筋に顔を埋めると太陽の香り。 どれだけ時間が過ぎただろう。自分が満足するまで抱きしめたので、たぶん相当長い時間だったのだと思う。それに力加減もできなかったから、体を離すと同時にへたりこんでしまった。 「すまぬ」 「幸村、今日そればっかり」 「あ、すっすまぬ」 「ほらね」 下を向いたままで目を合わせてくれない。 「もう少ししたら俺は空港に行かねばならぬ」 「知ってるよ」 「また暫く会えなくなる」 「そうだね」 「俺は寂しい」 体がぴくりと反応した。 「仕方ないよ。夏休みが終わるんだし。戻らないと」 「そうだな……」 の唇が引き結ばれるのがわかった。 「でも、その前に……次に会えるまでを充電させてくれ」 逃げないように瞳を真っ直ぐ見つめる。黒い瞳が揺れている。僅かな意地がそうさせるのだろう。瞼は閉じてくれなかった。 きっと睨んだままだった。 「…………構わぬ」 感触を確かめるように唇を重ねる。甘いというのはこういうことなのだろうか。 の感触に脳がしびれて体が宙に浮いたようになる。離れ難い。脳が叫んで背中を叩くの訴えも両手を掴んで退けた。 「はっ、……はぁっ」 自分が酸欠になりそうだと気付いてようやく唇を離した。 縁石に体を預けて呆としているを見たら下半身に熱が篭りそうになったが両手で頬を叩いて理性を呼び戻した。 、俺はまた戻ってくる。そしたらまた二人で楽しいことをしよう」 なるべく優しく笑う……やっぱり駄目か? 「……うん、それまで待ってる。でも休みになったらすぐに会いにきて」 下を向いたままだったけど少しだけの声が柔らかくなっていた。 「あぁ。冬休みが待ち遠しい」 潮風が二人の間を吹きぬける。夏の終わりが憎たらしくて愛しかった。 |