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「わあ、大量出血」 「がヒールで走るからだろー。待ってな、救急箱持ってくっから」 『今日俺ん家鍋!も来いよ!』 というメールが来たのでうきうきして出かけたら玄関の前でずっこけた。ヒールのバランスがとれなくて足を出したとたん視界が反転。咄嗟に出した手は間に合わなくて膝小僧が砂と擦れて熱かった。恥ずかしい!と思いながらも平静を装い立ち上がって脚を確認すると、砂で灰色になった膝小僧からだんだん赤いものが染み出してきてソックスに垂れていく。時間が経つにつれ、じくじくとした痛みが襲ってきて眉根が寄る。 「痛いぃぃぃ……」 早く治療して痛さとおさらばしようとインターホンを何度も押す。玄関の奥からどたどたという大きな音が聞こえてきて利家さんでもまつさんでもないことが分った。 「どした」 引き戸を開けて顔を覗かせた慶次に足を上げてみせると目を丸くした後ぶっはと吹き出した。あっはっはっは!と馬鹿でかい声で馬鹿でかい体を揺らしている。この年でずっこけるなんて恥ずかしいやら情けないやらで下を向いていると、一応遠慮したらしく手のひらを口に当ててくっくっと咳き込むような笑いに変わる。とうとう我慢できずにしゃがみ込む始末。 「そっ、そんなに鍋楽しみにしてたのかい」 にやにやしながら言う慶次にイラっときて尻をヒールで蹴りつけると動物の悲鳴のような声を上げた。当たり所が悪かったようで「うおぉぉ」と呻いていたのは気持ちよかったなあ。 洗面所を借りて土を落とす。ここの家の人たちって身長が高くて家の作りも合わせてあるので私は洗面所に登って土を流す。こうでもしないと洗面台で膝小僧が洗えないのだ。柔らかくない体を一生懸命駆使していると、椅子を持ってきてくれた慶次がそれを目撃してまたもや吹き出したけれど、まあそれは治療代として見逃してあげた。 「早くー」 私を椅子に座らせて救急箱からテキパキ消毒液と脱脂綿を取り出す。目の前にひざまついて作業する姿はまるで御伽噺の王子様みたいだと迂闊にも心が揺さぶられたのは内緒だ。 「うし、それじゃあ消毒液つけるからパンツめくって」 反応できない。顔が強張る。無言でいるとまた催促される。 「どした?めくれよ」 「………パ……パンツは無理……です」 そうだよ、パンツは無理です、ほんと無理です。一体慶次はなにがしたいの。ヨードチンキ握ってどこを消毒する気なの。思い切り引いていると正面にひざまついたこいつの顔がみるみる内に首から染まっていく。金魚みたいにぱくぱく口が開いて滑稽だ。握り潰した消毒液のボトルから中身が飛び出て床がびしょびしょ。掃除するのは慶次だからいいけど。私はそれを拾って膝小僧に残りの液をかける。 「違うっ違う!今の間違いだって、パンツじゃなくてスカートだって!スカート!!そんな顔すんなよ。ちょっと言い違えただけだろ、パンツじゃねぇの!!」 ガーゼをメンディングテープで留めて廊下を台所へと走りだす。 「まつさーん、慶次がパンツ捲れって言った!変態だよ!!」 |
それは無理です
「ちょっと待ってくれよー!だーかーら間違っただけだってーの!」
(08.04.06)