其れすなわち、本能
(ああ、たぶん明日もきっと同じことを繰り返すのだ!)
(08.01.28)
部屋に備え付けてある時計のカチカチという音だけがはっきり聞こえる。いや、実際には秒針が進む音の他にすうすうと心地よさそうな寝息が聞こえるがこれは幻聴だ。幻聴以外の何でもない。そう思いたい。思い込まなければ眠れぬ。目を閉じて羊を数えたり明日やるべきことを考えたりして平静を取り戻そうと努力するが隣の衣擦れの音で思考が一気に覚醒する。サイズは普通の物より少し大きめであるがシングルベットであることに変わりはないので2人が同じベットに横になると自然と体が密着してしまう。普段はないこの暖かさからは同時に柔らかさも伝わってきて某の熱を上げるのには十分だった。目を瞑り深く息を吐いて再び目を開く。既に意識は完全に覚醒した。こうなると起きたも同然だ。某は観念してそっと体を反転する。
起こさない様に顔を覗き込んで見ると殿は熟睡しており緩く握られた手が愛らしいなとか薄く開かれた口から漏れる吐息が艶かしいとか昼間は頭の隅に追いやっている思考が某を蝕んでいく。ふと邪な考えがよぎる。抱きしめても良いだろうか。眠っている女子に手を出すのは如何なものかと良心が叫んでいたがそれも聞こえなくなった。そろりと腕を伸ばして背中に手を回すと体温が伝わって自分のものと混じり溶けるようだった。それからふにゃふにゃした女子特有の柔らかさ。ぎゅう、と腕に力を込めると胸に弾力のあるものが当たり余計に興奮を煽った。腕は暫く背中を撫でていたが知らず知らず下降していたらしく腰骨を這っていた。脳内は完全に沸騰しておりもう殿が目を覚ましてもいいと更に手を下に滑らすとふにゅ、と妙に柔らかい感触がした。それに違和感を感じ何度も腰から下を撫でる。あるはずのものが無い。
「……ッ!ノーパン……!」
布団を跳ね上げて起き上がる。そうだ、雨に降られて濡れた服と下着は洗濯中である。着替えは自分のものを貸したのだ。男一人暮らしの場に女物の下着があるはずも無く某のものを持ってこようかと思ったがまさか自分の使った下着を貸すわけにもいかず、殿は「恥ずかしい……スースーする」と足をもぞもぞさせながら言っていたではないか。下が穿いていないなら上もかもしれん、と思い未だ空中を彷徨っていた手を胸へ伸ばすが寸でのところで留まった。これ以上はいけないと僅かな理性が叫んだ。渋々手を引きながら抱きしめたときの柔らかさはたぶん何もつけてなかったと思い返しベットを降りる。時計の針はまだ深夜を指していた。
なるべく足音を立てずにティッシュ箱を取りに行き、ベットの縁を背もたれに座る。ちらっと殿が眠っているのを確認して自分の下穿きに手を伸ばす。
「…あぁっ!」
先ほどの感触を思い返しながら自分の物に手を這わすと思い切り声が漏れた。いつも想像していたものが思いもかけず現実味を帯びたことで相当敏感になっている様だ。どこか冷静に判断しながら手を動かし続ける。もしあのまま殿に触れていたら?もし目を覚ましても抵抗しなかったら?もしも最後までいってしまったら?妄想を巡らせていく内にいつしか時計の音は自分の上がった呼吸や声でかき消され殿が目を覚ますかもしれないと一瞬頭を掠めたがもうすっかり理性は駄目になっていて手だけが同じ行為を繰り返していた。体は自然とベットサイドに深くもたれかかり瞼は快感に閉じかかっている。うっすら開いた眼だけがぼんやり部屋の様子をとらえていた。体が熱くて仕方なくなった頃チカチカと奥で光が瞬いた。
「あっあっあっ」
限界だ。目を瞑り素早く手を動かすと意識が飛んだ。
「あっ…、殿!あああっ!!」
いつも以上の強烈な感覚と気だるさが一気に襲ってきてベットからずり落ちるようにしてフローリングに倒れこむ。冷たい床が火照った体に丁度いい。天井を見上げて呼吸を整えていると視界が弾けた。
「殿!!いつから起きてっ!」
「ごめ、あのね、見るつもりはなかったの」
「申し訳ない!某、殿でして、しまった!」
謝らなければと下げた頭が勢い良く床にぶちあったてまたしても目の前に光が飛んだ。そういえばまだ下穿きを穿いていなかったといそいそと穿きなおし弁解をしようとベットに上るとこれ以上近づかないでという様にずりずり後ずさりされた。全部本当のことを話して謝ろうとしたが真実を言えば余計に嫌われる気がして触れたりはしていないなどと嘘をついた。これから暫く今日のことを思い出して毎夜悶々とするのかと自分に嫌気がさしたが、乱れた某の服を着ている殿を見て口の端が上がってしまったことに気付きもうそれでもいいかと考える自分は大分投げやりになったなと思う。