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何だろう?何かの音が聞こえる。 どこかで聞いたことのある音。 そうだ……これって……私の目覚まし時計だ。 ん……目覚まし時計!? 「やばいっ!いま何時?!」 慌ててベットから飛び起きて時計を見ると7時半。 寝坊しなくてよかった。 ほっと息をついて緩慢な動きでベットから降りる。 今日は大切な日だから寝坊するわけにはいかないのよ。 なんたって久しぶりに元就とデートなんだから。 元就は夏休みが終わるとまたドイツに行ってしまう。 そうするとまた当分会えないから会える内に元就と一緒に居たい。 9時半に駅に待ち合わせだからまだ時間は十分ある。 私は朝ごはんのシリアルをたっぷりの牛乳と一緒に食べて大好きなメーカーのコーヒーを作る。 今日は何を着て行こうかな。 元就ってどんな格好が好きだっけ。 暫く会わない内に元就の好みを忘れちゃってる。 ファッション雑誌をパラパラ捲ると巻き毛の可愛い女の子がポーズを取っているスナップが目に入った。 コーヒーをぐぐっと飲んで整理したばかりクローゼットから服を探して着替える。 うん、こんな感じがいいかも。 鏡の前でくるくる回ってみる。 この間奮発して買った水色のワンピースにニーハイ。 私も捨てたもんじゃない、かな。 通学鞄に入れてあるポーチを取り出していつもより丁寧に化粧をする。 休日はいつもノーメイクだけど今日はマスカラも多めにつけてみる。 意外と早く準備が出来た。 家にいたらそわそわしてしまってしょうがない。 何度も時計を確認するけれど、針は一向に進んでくれない。 約束の時間には早いけど私は「行ってきまーす!」と家を飛び出した。 本日、晴天。 太陽がまぶしいです。 携帯を開いて時間を確認すると9時過ぎ。 人通りがまばらになった駅前は静かで辺りを見回したけれど元就はいなかった。 約束の時間まであと30分か。 すぐそこの本屋さんで小説でも漁って元就を待ってよう。 店内はクーラーが利いていてひんやり気持ちいい。 微かに香るインクの匂いが鼻を擽る。 そういえば元就っていつも本の匂いがしてるなぁ。 くす、と笑って小説のコーナーに入ると知っている姿が見えた。 小説を読んでいる姿勢はいいのに顔をすごく近づけて本を読む人を私は一人しか知らない。 眉間に皺が寄ってる。あれは彼が集中している印。 久しぶりに見た眉間の皺すら可愛く見えてしまう。 もう少しその様子を見ていたいと他人の振りをしようとしたけど 慣れないミュールの高いヒールが床の段差に引っかかって大きな音を立ててしまった。 「何をしている」 「あは、元就も早いのね」 最初、乗るはずだった電車より2本早い鈍行電車に乗る。 通勤ラッシュを避けたこの時間帯は人もまばらで正面に座った元就はとても快適そう。 でもさっきから景色ばかり見ていてあまりこっちを向いてくれないのはどうしてだろう。 「ねぇ、飴食べる?」 赤い小さな缶を振るとカラカラと音がする。 昔懐かしいドロップス。 「何味がいい?」 「どうせたくさん残っているのだろう。子ども舌め」 ちらりとこちらを見た彼に私は苦笑しながら缶を幾度か振って白の半透明な薄荷味の飴を渡した。 口がスースーして苦手って言ったの覚えててくれてたんだ。 (じゃあ、薄荷味が食べられるようになったのは秘密にしとこう) 目の前にはモダン風な洋館が構えている。 建物の姿もさることながら、今回の展示品は世界の宝飾品を集めたもので 美術品に興味のある私は興奮気味に元就の服の裾を引っ張って急がせた。 彼は呆れた顔をしながらも小走りに着いてきてくれた上、まるでそれが当然であるかのように 「チケット2枚」と受付のお姉さんに言って貰ったチケットを私に差し出した。 ビロードが敷かれた床がヒールのコツコツという音を吸収していく。 証明が落とされた建物は薄暗いけれどその分ライトアップされている宝石たちはさも自分が光を放っているかのように煌いている。 「うわぁ、綺麗………」 元就はなぜかずっと私の後ろにくっつくようにしているのでつまらないのかと顔を覗き込んだけど 彼は彼で興味深そうに展示品を鑑賞していた。 美術館の一番奥にはマリーアントワネットもかくゆうという宝石が展示されている。 今回の展覧会の一番の見物。 他の展示物より高いところに飾ってあって見え難いので背伸びをしようとした 私はビロードの床にヒールがとられてしまってバランスを崩した。 ぐらりと倒れそうになるのを認識した瞬間がっしりと元就の腕を掴んでしまった。 「ご、ごめん」 「全くどうしてそう落ち着きがないのだ。あれが見たければこちらにくれば、」 お互い自分の行動に吃驚してすぐに手を離してしまったけれど、私の身体を支えてくれた手が 未だに行き場を探して彷徨っていたのですすす、と近づいてぎゅっと指先を握ったら 彼は一瞬目を見開いて何もない方向を向いて握り返してくれた。 「い、言い忘れていたが、、あまり短いスカートを穿くことは許さぬ」 「え、でもこれ買ったばっかりなのに」 「ならば家だけにしろ!」 美術品鑑賞もそこそこにさっさと出口に向かう元就を追いかけて走るというより よたよた歩く私が彼の背中を見失わなかったのは言うまでもないことでした。 ヒール&ドロップス (09.10.09) |