僕の宝物。かわいいあの子。



違う大学に通う僕とあの子とでは会う時間がなかなか作れない。 二人で同じ大学に通うという方法もあったけれど、 お互いが目指す未来にその選択は好ましくないということは明白だったので 提案した時点で却下された。僕もあの子も冷静だ。



今日は久しぶりに予定がない。 こんな日にあの子に会わずしてどうするのだ。 急いでクローゼットから服を出して着替える。 会うのは1ヶ月ぶりだろうか。電話は先週の土曜が最後。一週間も声を聞いていない。 愛しいあの子に会える歓びで手が震えてボタンがうまくかけられない。 あぁ、僕はこんなにもあの子のことを愛しているのだ。 なんとか着替えを済ませて財布と携帯だけ持って玄関を出ようとしたところで あの子が家にいるのかどうか確かめようと思い携帯のボタンを押す。 指が震えてうまく押せない。繋がらない電話がもどかしい。


1コール


2コール


3コール


4コール


5コール


6コール


7コール


8コール


出ない。その内アナウンスが聞こえて電話を切る。 そうだ、僕に時間があるからといってあの子も同じとは限らない。 僕は馬鹿だ。失念していた。 今日は会えないかもしれないという事実が、さっきまで浮かれていただけに余計に気落ちさせる。 だんだん自分に嫌気がさしてソファーに倒れこむ。
「僕は自分の欲望のことしか考えてないのか…」
連日連夜の課題で疲れている。そうだ。もう寝てしまおう。 起きていればあの子のことばかり考えてしまって苦しい。 瞼を降ろして強制的に眠りにつこうとする。

ピンポーン
ピンポーン

チャイムの音が聞こえる。 最近は新聞勧誘だとか宗教勧誘だとかが多くていけない。 こういうのは居留守を使うに限る。 耳にイヤホンを付けヒーリング音楽を流すとだんだんまどろみがやってきた。



ふと目がさめると夕日が見える。 あれから5時間はたっただろうか。 そろそろ夕飯を作らなければならない頃だが最近忙しくコンビ二弁当ばかり食べていた僕の冷蔵庫には何も無い。 食生活に気をつけないといけないなと思いながら夕食を買いに行くために家を出る。 玄関のドアを開けたところで何かに当たった。
「あっ半兵衛、いたのっ?」
!一体どうしたんだい!?」
「半兵衛を待ってたの」
(上目づかいで僕を見つめる。なんて可愛いんだろう!)
「そんなところにいないで僕を呼べば良かったじゃないか」
「携帯に電話したしチャイムも鳴らしたよ」
「チャイム…」
嫌な想像が過ぎる。
、もしかして、ずっとここで待っていたのかい?」
「そうだけど?」
「何てことだ……」
僕はその場に額を押さえて蹲る。 何てことだ!は5時間も玄関で待っていたのだ。
「家に帰るなり、どこかで暇を潰すなりすれば良かったじゃないか…」
「だって、半兵衛に会いたかったんだもん。ここにいれば会えると思って」
「馬鹿だな、君は………」
「えへ」
包み込むようにを抱きしめるとそろりと腕を回してきて猫のように甘えてくる。
「ん〜、半兵衛の匂いだぁ」
僕の胸に頬をくっける君はとても幸せそうな顔をしている。 すまない、ありがとう。謝罪と愛情をこめてやわらかい唇にキスをする。
「愛してる。君が好きなんだ」
耳元で囁くと頬を染めてはにかんでいる君がいた。


金糸銀糸蝶結び



(07.08.23)