涙***
を
吸
っ
て
大
き
く
育
っ
た
の
は
あ
な
た
と
わ
た
し
の
ひ
ま
わ
り
で
し
た
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「はじめまして、マスター」
可愛い人だと思ったの。
にこっと笑う姿に、パーカーとポニーテールがマスターの向日葵みたいな印象を強くした、あの日。
私たちはいい関係になれる。そう直感した。
私たちはどの子がどんな人のボーカロイドになるかなんて自分じゃ決められない。
マスターだって、いくら念じてもインストールするボーカロイドの性格なんて決められない。そんなくじみたいな中で出遭ったわたしたちは運命だったのかもしれない。
「私があなたをインストールしたの。よろしくね、ミク」
「はい、マスター」
私に体温はないけれど、差し出されたマスターのてのひらはとっても暖かかったのを覚えてる。
それでこう言ったの。 歌は上手じゃないし、音楽の専門的なことも分からない。パソコンも人並み。こんなマスターでごめんなさい……でも、あなたと一緒に歌いたいって思ったんだよ。私に力を貸してくれない?って。
馬鹿だよね。マスターに従うことは最初っからプログラムされてることなのに。わたしが返した言葉は「もちろん!」だった。
それはごく自然なことだった。
あまりに自然で、どちらが話しはじめたのか覚えていないくらい。でも、こんな歌が作りたいの!ってジェスチャーしたマスターがすごくおかしかったのは
覚えてる。わたしが思わす吹きだしちゃうと赤くなって視線が泳いでた。
夏が好きだと言っていた。
「私はね、夏が好きなの。暑いけどそれすら愛せちゃうくらい。グラマラスな入道雲とかぬけるに真っ青な空とか、知らないところに繋がってそうな蜃気楼とか。……こんなこと友達には恥かしくて言えないけど!」
早く8月にならないかなって笑って、季節を先取りした真っ白いスカートとサンダルを見せてくれた。いまでも思い出せるよ。
マスターに謝らなくちゃいけないことがあるの。
楽しくて楽しくて早く歌わせて欲しかったわたしは、わたしがボーカロイドであることと、マスターが人間だっていうことを忘れていた。
わたしがマスターと歌を作っていくのが好きで好きで仕方なかったのは隠せなかった。
マスターもそんなわたしをきっと好きでいてくれて、いつも一緒にいるようになった。
わたしは喜びのあまり、現実が見えてなかった。
いつも一緒っていうことは、マスターはどこにも出かけてないってことでしょ?
学校は?習い事は?友達は?……ご飯は?
ある日、マスターくらいの女の人が訪ねてきた。ずっと前に話をしてくれた人と特徴が同じだったから、マスターの友達だってことはすぐに分かった。
ガチャガチャガチャガチャ!!!
マスターの名前を狂ったみたいに呼んでいて恐かった。でも、もし鍵を開けなかったら、マスターがこの人に再び会ったとき
わたしをアンインストールさせてしまうんじゃないかと思って、鍵を開けてすぐに部屋の隅に隠れた。”どうか見つかりませんように”そう願って。
(だから、わたしは、すくなくともあのときに気づいていたんだ。そのことに気づけなかっただけで。わたしは汚かった)
結局、マスターはその日の内にどこかへ連れ去られてしまった。
1ヶ月くらいして人形みたいに白く細くなったマスターが戻ってきた。一緒にいた人は日焼けしていて、そうか、今が夏なんだと妙に感心した。
「おかえりなさい、マスター」
「ただいま、ミク。突然一人にしてごめんね」
肩に掛けられたカーディガンが何故か痛々しく思えた。
「マスター、夏ですよ。一緒に外にでましょう……外で歌ったらきっと気持ちがいいですよ!」
「ごめんね、ミク。今は外に出られないの」
マスターにただ、笑って欲しかっただけなのに。微笑んでくれたけど、それはわたしの望んだ笑顔じゃなかった。
ロッキングチェアが揺れるようにゆっくりと、でも確かに進めていた曲が完成した。わたしとマスターの初めての曲。
「よかった」
ほう、何故かマスターは安心したような顔をしてた。
「外で歌おう」
太陽と月が空に同時に見える頃を選んで外へ出た。
こんな時間は時折自動車が通るくらいで「これなら思いっきり歌えるね」って笑いあった。
はじめての歌。
マスターはやっぱり声が上手くでなくて、か細い声で掠れたりひっくり返ったりしていたけど本当に楽しそうだった。
ボーカロイドも涙がでるのかな?
なぜか、わたしの頬に水滴がながれた。
隣を見ると、マスターも同じ顔をしてた。
「ごめんね」
言ったマスターの顔が歪んだ。
一緒に歌を歌って、たくさん話をしたその日、マスターの一番悲しい顔を見た。
「あなたをアンインストールしようと思うの」
驚いて動けなくなったわたしに、母鳥が小鳥に餌の食べ方を教えるようにゆっくりと話をしてくれた。
「これは私と、私を大切に思ってくれている人と決めたことなの。ミクとお別れをするのは私も本当に辛いけど
ミクもきっと同じように思ってくれているけど、私にはまだやらなくちゃいけないことがある。
今の私じゃ、やらなくちゃいけないことよりミクをとってしまいそう。
今までがそうだったようにね。
でも私にそれを気づかせてくれた……ううん、ちゃんと現実が見えるように叱ってくれた人がいるの。
私はその人たちがミクと同じくらいに大切で天秤にかけることはできない。
でも、掛けなきゃいけないときは来るんだ。それが今。
私は人間だから、私がちゃんとできるようになったら迎えにいく、からっ……、ごめんね」
後は嗚咽になって聞き取れなかった。
わたしの頭はバグが起こってしまったみたいでマスターが目の前で泣いているのに、声すらかけることができなかった。
そして、弱弱しいマスターの手に引かれてされるがまま、わたしは人間の世界での質量を失った。
*****
ねえ、マスター。
わたしもちゃんと気づいたよ。もし、次に会えたら謝りたい。
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