ごめん、今日も帰れなくなった、とのメールを受け取って冷めかけたシチューとサラダをテレビの前まで持って行く。ご飯を食べさせる相手がいなければ食生活もおなざりになるものでここ最近は前の日に作ったものやスーパーの惣菜をおかずにしている。もともと風来坊気質の彼は「仕事」という名の一人旅をそれなりに満喫しているようでカメラを片手にすれば暫く帰ってこない。半月留守にするのは珍しくないのだ。そういえば、サッカー選手か野球選手の奥さんもそんなことを言っていた。スポーツ選手並みの生活か。なんて思いながら深夜のチャンネルを回す。 突然部屋が暗くなり、照明がパチパチと点滅しだした。あ、嫌だな、蛍光灯取替えなくちゃ。家の照明の位置は一般のものに比べて高い。私では物置から簡易梯子を持ってこなければならないだろう。普段なら慶次が椅子に登って時間もかけずに代えてくれるものを。未だに点滅する照明を不快に思いながら確か倉庫に買い置きがあったはずと電話の隣に放置してあった鍵を持ち玄関に向かう。玄関には私の靴ばかりが並んでいて男物は隅に追いやられていた。
靴に履き替えようとすると呼び鈴が鳴った。う、わ、タイミング悪い。こんな夜中に来訪客なんて誰だろう。慶次の仕事関係の線が濃厚だ。私の来訪客など滅多にいない。扉一枚隔てた向こう側の人物は家の住人がすぐ向こうに居るのを察知したのかトントンとノックをした。化粧もすっかり落とした顔を人に見られるのは抵抗がある。黙っているとまたトントンと音がして「俺だよ」と疲れ切った声がした。
驚いて扉を急いで開けるとよれよれになったコートに大量の荷物を抱えて慶次が壁にもたれかかっていた。
「どうしたの、今日も帰れないって言ってたのに」
声をかけると大きな体が圧し掛かってきた。随分と疲れきっているようだ。重みにしゃがんでしまいそうになるのを耐える。どうやら仕事を片付けて新幹線に飛び乗りタクシーを使って帰ってきたようだった。
「ごめん、間に合わなかった」
ぐったりとしている彼が申し訳なさそうに呟く。何のことだが分からないままでいる私を他所にのろのろと移動して荷物やらお土産やら入っている袋の山からそれを取り出す。うやうやしく向き直ったと思えばゴホンと一つ咳払いした。
「昨日は俺とお前が出会った日だろ。あの日からずっと愛してる」
真剣な眼差しで差し出されたものは昔私が好きだと言ったラナンキュラスのブーケだった。

記念日には花束をよろしく

(Happy Go Lucky様へ 08.02.26)